かわいい店である。真っ先に目に飛びこむ、ドラえもんカラーの青い壁。それをバックにすると、山型のパン・ド・ミも、それから、ころんと丸い形のパンたちも、ますますかわいく見える。あんぱんも丸、バターフランスも丸。丸がふたつくっついた双子の形の「チョコパン」もある。
かわいいのは丸いパンばかりではない。すーっと一直線に伸びた細身の「練乳とカンパーニュ」。いわゆるミルクフランスよりさらに細く成形、重たいカンパーニュ生地を食べやすくしている。ふにーっと伸びてぱつっと切れると、じわーっと、千歳飴(あめ)みたいな練乳のミルキーさが滲(にじ)んでくる。
と同時に、ライ麦の、チョコのように甘い香りと、レーズン種の甘酸っぱさ、ウイスキーのような熟成の香りが混ざり合い、まるでカルーアミルク(コーヒーリキュールを牛乳で割ったカクテル)みたいになる。それまで別次元にあった、練乳クリームのかわいい甘さとカンパーニュの重厚な風味が合体、練乳の陽気さにつられてカンパーニュ生地まで踊り出した、という感じである。
「ライ麦が入ってる硬いパンを食べてほしい」と竹内友梨さんが工夫する中から生まれた組み合わせだ。酸味が出ないよう、ルヴァン種ではなくレーズン種を使用。レーズンを水に浸(つ)けた液体状の種を、種継ぎせずそのまま使うため酸味が出ない。同じ生地のカンパーニュも然(しか)り。ぷにゅっぷにゅして、舌の上でふるふるとふるえ、黒糖のような甘い香りをあふれさせる。
友梨さんが製造、夫の睦(むつみ)さんが販売を担当する。こうなるまでには、ロマンスがあった。睦さんはもともと「まるきBAKERY」の常連。いつもおしゃれな自転車でやってくるのがトレードマークだった。何度も通ううち親しくなり、めでたくゴールイン。ハネムーンはドイツへ。自転車を持ち込みライン川沿いをふたりでツーリング、パン屋巡りをした。
「向こうのパン屋さんは、ご近所の方が当たり前みたいに大きなパンを買っていく。そんな日常に溶け込んだ、親しまれるお店になりたいです」
修業先である、日本初のドイツパン専門店、神戸の「フロインドリーブ」で学んだパン作りと現実の風景がそのときつながったのだ。
まるきBAKERYのパンは、食べてもやっぱりかわいい。「パン・ド・ミ」は、ぽよーんぽよんと、どこまでもはずんでいきそうだ。耳には黄金色の旨味(うまみ)。中身はミルキーさがあふれかえり、ぽよんのあと見事に牛乳がゆのように溶けて喉(のど)を甘く湿らせる。これだけ甘いのに、副材料がシンプルにバターと砂糖だけであることに驚く。100%で使用する北海道産「春よ恋」の持ち味であるミルキーな風味がすばらしくよく表現されているのだ。
「湯種を使って、小麦の風味を引き出したいと思いまして。トーストするとまわりがさくっとして、中がもちっとするので、厚切りがおすすめです」
竹内友梨さんのパンはどれも、北海道産小麦ならではのミルキーさを豊かに感じることができる。「あんぱん」もそのひとつ。表面に焼き目をつけない白パン状態。ふにふにとして、まるでおまんじゅうのよう。硬いところは一切なく、ねっとりとクリーミーに溶けていく。クラスト(硬い皮)がない白パンならでは、焦げ目の強い味に邪魔されることがないため、小麦のミルキーさとあんこの相性がいかんなく楽しめる。
隠せない小麦愛の持ち主。石臼を購入し、自家製粉を行う。玄麦(挽〈ひ〉く前の粒の状態の小麦)を仕入れるために、神戸市で麦の栽培をしながらパン屋を営む「小麦生活」を訪ね、パンの原点に触れた。そのことが、浜松市の3軒のパン屋で小麦を栽培するプロジェクト「komugi_success_club」に結実する。
「毎日使ってる小麦が、どういう過程を経てやってくるか知りたくて、小麦を育ててみたいと思いました。ひとりでできることではないと思ってたところに、小麦の栽培をしている生産者さんが浜松にもいることを知りました。実現して、すごくうれしい」
地元の小麦畑で、作り手自らが体験することで、お客さんに小麦を身近なものとして感じてもらう。そして、浜松産小麦の風味を知ってもらう。そのことが、「ご近所の方が当たり前みたいに大きなパンを買っていく」シーンを浜松で再現するための、意外な近道になるかもしれない。
まるきBAKERY
浜松市中区広沢3-26-11
053-453-3013
10:00~18:00
Instagram
フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
「このパンがすごい!」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)
池田さんからのお知らせ
『パンのトリセツ』(誠文堂新光社)が発売中です。サブタイトルは「知ればもっとおいしくなる! 切り方・焼き方・味わい方」。食パンはもちろん、バゲット、カンパーニュなどのハード系、イタリアパン、イングリッシュマフィン、ベーグルなどの食べ方を徹底解説した本です。あなたのパンライフをもっと楽しくする一冊。ぜひお買い求めください!
からの記事と詳細 ( 見ても食べても、やっぱりかわいい。まあるいパンが勢ぞろい/まるきBAKERY - 朝日新聞社 )
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