こんなときだからこそ、おうちでパンを楽しもう。お取り寄せできるパン屋さん特集、第２回は「異色のお店」編。いま通販パンがめちゃめちゃおもしろい。SNSの普及によって、店舗を持たない通販特化型のパン屋が続々登場。一方、人気店がコロナを機に通販をはじめるケースも増えている。
fumigrafico
代々木上原の一軒家の半地下に工房を構える堀内文さん。彼女のパン屋は看板を掲げるでもなく、町の中で目立たぬ存在だ。Instagramのアカウント「@fumigrafico」が店舗への入り口。昨年9月から販売をはじめた。
Set A おまかせパンセット。（左上から時計回りに）国産小麦とライ麦のカンパーニュ、ベーグル・黒ごまチーズ、北海道キタノカオリのパン・ド・ミ、国産小麦のバゲット、フランス産小麦のバゲット、マロングラッセスティック、ミッシュ、ルヴァン種のオーガニックキャロットケーキ。写真以外に、シナモンカルダモンロール、バゲットのシュガーバターラスクも
市販のパン酵母（イースト）は使わず、自家培養する発酵種だけでパンを作る。種からうつくしい香りを引き出し、かつそれをさりげなく香らせる抜群のセンス。
まさにSNS時代ならではだ。堀内さんは、パン屋修業をしたことも、誰かにパンを習ったこともなく（半年間のパン屋での下働きとたった１度のパンレッスンを除いて）、15年間自宅でパンを焼きつづけたのち、グラフィックデザインの仕事をつづけるかたわらパン屋になった。Instagramでつながる世界のパン職人たちが、彼女の「師匠」だ。
「海外のベイカーさんたちから教えてもらいました。酵母の起こし方から、なんでも教えてくれます」
国産小麦とライ麦のカンパーニュ、ミッシュ
「国産小麦とライ麦のカンパーニュ」。ヨーグルトのような甘さと、ルヴァン種のワイルドな香りが同時に漂う。そして、北海道産小麦らしいミルキーさ。皮は薄めでありながら、香ばしさと滴るような旨味（うまみ）を感じさせる。皮には引きがあり、一方中身は口溶けよく、と食感のコントロールにも秀でる。
発酵を短くして酸味を抑え、種のいい香りを引きだすことに集中する製法は、「タルティーンベーカリー（サンフランシスコにあるサワードウムーブメントの発信地）の作り方に近いです」。
北海道キタノカオリのパン・ド・ミ
「北海道キタノカオリのパン・ド・ミ」は、ふわふわっとした中身がしゅっと溶け、つるっと喉（のど）を滑りおりていくさまがすばらしい。麦の清らかな甘さと、バターの甘さが、ミルキーさという共通項で響き合う。一方で、耳は香ばしく、甘く、旨味があり、と力強い。乳酸菌の香りも、小麦の風味を後押ししている。
「シナモンカルダモンロール」も世界的に流行するサワードウ仕様のタイプ。食感、口溶けにやみつきになりそうだ。皮のがりがり感、中身がむちっとしたのち、とろとろになっていく。麦とバターのミルキーさ、カルダモンのすーすー感、シナモンの甘い香り。これはもはや魔性である。
シナモンカルダモンロール
fumigrafico
https://www.instagram.com/fumigrafico/
通販サイト https://fumigrafico-tokyo.stores.jp
セテュヌ ボンニデー
国産小麦を使ったパンの革新者である、「365日」の杉窪章匡シェフ。その秘蔵っ子だった有形泰輔シェフによる人気店「セテュヌ ボンニデー」もコロナ禍を機に通販を開始した。清らかに、クリアに、そして芳醇（ほうじゅん）に。国産小麦の風味を活（い）かしつつ、うっとりする食感を作りだす術（すべ）を完全に手中に入れている。通販では、「おまかせセテュヌ便」として、そのときどきに変わるさまざまなパンが、冷凍庫に収まりきらないほどたくさん届く。
おまかせおまかせセテュヌ便。朝のプルマン、クロワッサンイズニー、バゲット、ソンプルサン、イチゴのミルクフランスなど
角食パン「朝のプルマン」。ふわふわな中にぎゅっとした芯がある。それを、アクセルでも踏むように歯が噛み締めると、しゅわっと溶けて泉のように風味があふれる。フレッシュなバターの香りと小麦のでんぷん質の香り。濃厚な耳にもキャラメルのような甘さとあとを引く旨味がある。ちょっと味見のつもりが、生のままで、何もつけずに、むしゃむしゃと食べまくっている自分に気がついた。
小麦の風味が、上質な具材と出会うことで、味わいが消されるどころか、ネクストステージへと連れていかれる。そんな体験ができるのもセテュヌのパンの特徴。
「ショコラ」。ぷりっぷりっとした嚙（か）みごたえの生地。混ぜこまれたココアの香りと苦味が、麦の甘さと出会ってしみじみとした味わいになる。その中に潜んだ、ベルギー産クーベルチュールチョコレートの甘い奔流。小麦の風味と合わさることで爆発的なケミストリーが生まれる。
ショコラ
セテュヌ ボンニデー
http://cestune-bonneidee.com
通販サイト https://cestune.thebase.in
神奈川県川崎市多摩区登戸1889 今野ビル 1F
044-931-6910
【紹介記事】このパンに仕掛けあり、職人技と材料がうむダブルインパクト
パネ・ポルチーニ
大阪キタの路地裏に深夜までできる人波。大人気店「パネ・ポルチーニ」に殺到する人たちの行列だ。彼らの目当ては、普通のパンの倍近い水分と米粉を配合したぷにゅぷにゅパン「塩フォカッチャ」や、シズル感出まくりの惣菜（そうざい）パン、菓子パン。パネ・ポルチーニが通販を開始したことで、それらが大阪に行かずとも食べられることになった。
塩フォカッチャ
旗手一夫シェフは、理想のハード系パンを作るために、日本全国の小麦畑をまわった。そうして見いだしたひとつが、滋賀県の生産者・大地堂廣瀬さんが作る古代小麦「ディンケル」。それを生かすため、「ディンケルペイザン」には、掟（おきて）破りの「きなこ」を配合。ディンケル特有のアーモンドのような甘い香りや、すーっとするスパイシーさとともに、きなこのまったりとした甘さがまぎれこむ不思議な境地。そこはかとない種の風味がそれらの輪郭を鮮やかにする。
野菜のフォカッチャ、レンコンとチキンのフォカッチャ
パネ・ポルチーニの母体は、イタリアンレストラン。その強みを生かして作られるのが、具材をたっぷりのせたフォカッチャ。「レンコンとチキンのフォカッチャ」は、スモークされた鶏もも肉の燻香（くんこう）が、さくさくの心地いいレンコンに乗り移って、思いもかけないマリアージュが展開。チーズとベシャメルのとろけとミルキーさはそれをさらに加速させる。
通販では、自家製加工肉の専門店「サルメリア・ポルチーニ」が作る「パンに合うハムセット」も販売。１軒で食事を完結させられる、うれしいサービスだ。
店内風景
パネ・ポルチーニ
http://www.porcini.jp
通販サイト https://porcini.thebase.in
大阪市福島区福島5-10-22
06-6451-8001
【紹介記事】トレンドは「ぷにゅぷにゅ」、人気必至の塩フォカッチャ
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April 28, 2020 at 03:09PM
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