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Monday, January 13, 2020

「最高っていうより、毎日食べてちょうどいい」特別なあんこパンに田舎パン/秋日和 - 朝日新聞社

東海道線の駅から、ひなびた真鶴の町を歩いていく。店が近づいてくると、潮の香りの中にパンの香りが立ち混じった。

「最高っていうより、毎日食べてちょうどいい」特別なあんこパンに田舎パン/秋日和

外観

「秋日和」に着くと、あたたかなコーヒーといっしょに、焼きたての「シナモンロール」が待っていた。ふわふわではなく、本場と同じように、歯が生地の中にみしみしとめりこんでいくような硬さ。シナモンシュガーの周辺だけは潤っていて、そのしめりと甘さを求めて、もう一口を食べたくなるのだ。やわらかすぎず、甘すぎず。それが、「もう一口」への駆動力となる。

「最高においしいっていうより、毎日食べてちょうどいいもの」が清水秀一さんの作りたいパンだという。

 北海道産小麦「ハルユタカ」の実力を侮っていたかもしれない。後発の北海道産小麦「キタノカオリ」「春よ恋」の目覚ましい甘さに押され、存在感が低下している感は否めない。だが、この小麦には「毎日食べてちょうどいい」感じがある。

 ハルユタカを90%使用した食パン生地で自家製のあんこを包んだ「あんこパン」。ふわふわな生地を噛(か)み締めると、着地する寸前に芯ができてもっちりとした感触を伝えてくる。香りは澄んでいて、清らか。それが、豆の皮のくぐもった香りとうつくしいコントラストを描く。風味が少し物足りないかと思った刹那(せつな)、噛むごとに、あんこといっしょに小麦の甘さが育っていく。表皮もなつかしい香ばしさを奏でている。なんでもないけれど、特別なあんぱんだと思った。

「最高っていうより、毎日食べてちょうどいい」特別なあんこパンに田舎パン/秋日和

あんこパン断面

 木のばんじゅう(パンを入れるケース)に見覚えのある牛のマーク。中目黒のCOW BOOKSのものだ。なぜ清水さんはこのばんじゅうを使うのだろう。

 清水さんが自営の道を進むため、会社員を辞めてパンの世界に足を踏み入れたのは、やや遅く、31のとき。COW BOOKSを立ち上げた松浦弥太郎の著書に影響を受けてのことだ。そこに書かれていたキーワードは「スモールスタート」。COW BOOKSがはじめはマンションの一室で営業していたことに倣い、清水さんもシェアオフィスを間借りして、わずか1.5坪の売り場でパン屋をはじめた。旅行で訪れて惚(ほ)れ込んだ真鶴に妻の綾香さんとともに移住した新参者だったが、間借りの店舗で地元の人たちと親交を結び、カフェスペースも備えた自前の店舗に移転できることになった。

 取材の日も、真鶴で柑橘(かんきつ)農家を営む松本さん一家が来店。無農薬で育てたレモンがパンになっているのをよろこんでいた。

 松本さんのレモンの皮を削ってバゲット生地に混ぜた「レモンとベーコン」。もわんとした弾みようは、軟かい球を握り潰すような感覚。もちもちと噛んでいくうちに、いつのまにか口の中に旨(うま)みの液体が満ちている。皮はごく薄く、あらゆる人を排除しない食べやすさ。北海道産小麦の旨みとベーコンの旨みが合流。レモンの酸味とちょうどよい苦みが、それを軽やかにしていた。

「最高っていうより、毎日食べてちょうどいい」特別なあんこパンに田舎パン/秋日和

レモンとベーコン、シナモンロール

 ほとんどすべてのアイテムを、0.2%とかなり少なめのパン酵母(イースト)によって長時間発酵で作る。赤黒い焼き色は、旺盛に分解が起こって、糖やアミノ酸など風味の元になる成分が豊富に生成されているせいだろう。

 唯一、自家培養したルヴァン種で作られる「田舎パン」。パンの風味を表現するのにこんな言葉はおかしいだろうか。中身に、みかんのような甘さが感じられるのだ。

「全粒粉は本州のものを使いたくて」と、長野県産の全粒粉を25%使用。そのふすまの甘さと、ルヴァン種の明るい色調の酸味が相まって、こんな軽快な甘さになるのかもしれない。これもまた、フランス産小麦の重厚な風味とはちがう「毎日食べてちょうどいいもの」だ。

「最高っていうより、毎日食べてちょうどいい」特別なあんこパンに田舎パン/秋日和

清水秀一さん(写真左端)と綾香さん、真鶴のレモン生産者・松本農園ご一家と

 秋日和のわずか数十メートル先には、同じく真鶴に惚れ込んで移住した仲間がいる。以前当欄でも紹介した、真鶴の干物をピッツァにする「真鶴ピザ食堂Kenny」。セットで訪れたい。

パン屋 秋日和
神奈川県足柄下郡真鶴町岩296-2
0465-46-6215
10:00~売り切れまで
月・火:休
https://www.facebook.com/akibiyori.pain/
https://www.instagram.com/akibiyori.pain/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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