住むなら絶対、おいしいパン屋が近くにある家がいい。
休日の朝、いつものアラームは当然消して、太陽の光で目が覚めたなら、隣で寝ている恋人と、さわやかな朝を今日も一緒に迎えられたことをおでこを突き合わせて喜びあう。
その愛(いと)しい時間に満足したら今度はのんびり歯みがきをして、するんと肌をすべっていく楽ちんな綿のワンピースにすっぽり身を包む。
となりで準備をし終えた恋人とのおきまりの一言が出発の合言葉。
「今日はパン屋さんで朝ごはんにしちゃおう」
お気に入りのおそろいのスニーカーを履いて、今日は何を食べようなんてたわいもない会話をしながら店に向かう――。
お察しだとは思うが、無論、すべて妄想である。書いていたらむなしくなって半日ほどフリーズしてしまいましたが、自分の住んでいる街に、自分だけのとっておきのお店があったら……。それはどんな話題の行列店に並ぶよりも、心が豊かになると信じている。
まるで顔なじみの友達の家に来たような気持ちに
私のそんな願望を見透かすようにCizia(チッツィア)は昨年11月、西小山の商店街の中に店を構えた。
道端で咲くすずらんのように、小さく愛らしい店構えは、思わず足を止めてふとのぞき込みたくなるチャーミングさがあった。
黄色と水色で配された内装はさわやかな活気を生み出し、隣の席の人同士がまるで昔からの友達であるようなあたたかな一体感で店内を満たしていた。
初めて来たはずなのに、食べる前からすでに、顔なじみの友達の家に来たようにリラックスしている自分にクスッと笑いそうになる。
どれも魅力的なメニューばかりで決めきれず、店主の馬場さんにおすすめを出していただくことにしました。
なお、おひとりさまでの来店限定で、多くのメニューをハーフサイズで注文できるそう。
ちょこちょこ色々なものを食べたい私はそのはからいにテンション急上昇。
小皿にちょこんと盛られた赤玉ねぎと麦だけのシンプルな麦サラダ。
そっとひとくち口に運ぶと……。
わぁ~なんてパワフルなんだろう!
見た目以上に奥深い。
粒そのままの麦はとても力強く、むぎゅむぎゅと音を立てて口の中で歯をはね返す。
ほんのり甘い赤玉ねぎと、ビネガーのかすかな酸味を包む甘めのマリネはとても控えめな味付けに仕上がっていて、麦の力強さを存分に感じられる一品。
それに合わせて提供された自然派ワイン、「KIYO Wines GYM 2019」。
やさしく綺麗(きれい)なオレンジ色にふわりと広がる甘い香り。
甘めのフルーティーなワインを想像して口に含むと……広がるのは良いギャップ。
なんともすっきりしていてドライなのだ。
すっときれる余韻と共に、ぶどうの真ん中の甘くやさしいところだけが残るような、凝縮感のあるうまみを最後に残して、そよ風とともにサッといなくなってしまうようないたずら心を感じた。
今のところ見たことはないけれど、もしいるならば、妖精のしわざだと思う。
このワインを造る人は一体どういう人なのだろうか。
すごく興味深かったのでさっそく店主の馬場さんに尋ねてみました。
馬場さん「私にとって思い入れのある造り手さんの一人で、すごく面白い人なんですよ。偶然、宮城へぶどうの収穫に行った時に出会ったのですが、陽気な兄ちゃんという感じで優しくてとてもお世話になったんです。人柄の良さに惹(ひ)かれて、ワインが世に出たらお店で出したいとずっと思っていました」
「実際にリリースされていざ試飲した時に、ユニークな味を想像していたから、こんな優しいワインを作るんだ!!って(笑)。優しい人なんで、そういうのって溢(あふ)れ出るんだろうなって思います」
料理に人柄が出るのと同じように、ワインや野菜も同じように人柄が出るのだと馬場さんは言う。
そんな馬場さんのお人柄こそもっと知りたい。
料理が人を語るのならば……。
次の一皿をあわてて注文しました。
いかにもおいしそうな濃いグリーンの野菜たちは今にも動き出しそうなほどいきいきとして立体的。切り落とされずに「本当に大切なものは何か?」と真理をついてくるようなホウレンソウの根っこがたまらなくおいしそうだ。
口にする前から、なんて引力のある野菜なのだろう。
さっそくかぶりついてみると、
これは……!
大地そのものを食べているみたい。
あまりの味の濃さにおいしすぎて地響きが頭の中に鳴り響きました。
野菜のうまみ、深み、甘みを1mmも逃してたまるかという、馬場さんの熱意すら感じる真剣勝負。
今まさに大地から引っこ抜かれたような鮮度と甘みを保った野菜はしっかりと輪郭をもち、味付けはきわめてシンプルで、素材を生かすために最小限にしているよう。
それなのに、野菜に飽きることはなく、噛(か)みしめるたびに地球の核に届いてしまいそうなほど深い味わい。
「お好みで」と、ピンクソルトを勧めてくれたが、野菜の味があまりにもしっかりとしておいしかったので塩の出番は一度もなかった。
使用している野菜はすべて有機農法の一種のバイオダイナミック農法で育てられているそうで、その野菜のもつエネルギーに納得しました。
合わせてくれたワイン「Fattoria AL FIORE」は甘酸っぱいチェリーを思わせるような可憐(かれん)な赤色で、若さを想像させたが、飲むとこちらも野菜に負けないほど、地に足をつけたようなしっかりとした味わいで驚いた。
奥にぶどうの土壌を想像させるような力強い自然のエネルギー。
しかしそれでいてロゼのような華やかさも織り交ぜられている。あえて女性に例えるとしたら、「この女性には勝てないな」というタイプだ。
馬場さんの作る料理は、自分の味付けが主張することはなく、素材をいかに生かすか――。普段そればかりを考えている人なのではと想像させる懐の深さがあった。
そしてすべてのお皿が全力で純粋な熱気を帯びている。
料理が人柄を表すのであれば、周りの人を一番に考え大切にしている馬場さんの情熱は、料理にありありと映し出されているといえるだろう。
カウンターに並べられた季節のフルーツが入った瓶は、パンをふくらますための酵母をおこしているのだそう。
パン好きなら知らない人はいない「パーラー江古田」仕込みのパンは小麦の味の違いをそれぞれ感じられるほど香ばしい。
特においしかったフォカッチャはシフォンケーキのようにふわふわで、そのやわらかさの個性に驚いた。
底面にじゅわっとしみたオリーブオイルのおかげで食べる手を止めることは不可能だ。
馬場さんは言う。
同じぶどうでワインとパンを作ったり、同じ麦からパンやパスタにしたり、食事一皿一皿も、親戚や友達になるような「誰かと誰かが必ず繋(つな)がっているよね」といえるお店にしたい。
料理だけじゃなくて、お客さんも。
おひとりできた方も隣同士で友達になってくれるんですよ。
「じゃあまたここで」って。
それがすごく良くて。街の食堂になっているのがうれしいんです――。
お店の名前「Cizia」はイタリア語の「amicizia(深い友情)」からきている。
今のご時世、一つになることの大切さを心から感じている人だと伝わってきた。
最後に私もこの店との繋がりがほしくて、おいしすぎたフォカッチャを家に連れて帰ることに。
おいしくパワフルなものを食べながら良いお話を聞かせていただきお店を出るときにはすごく元気になっていました。
なんてヘルシーなんだろう!!
次はどんな出会いがあるかなぁ。
(文・渡辺早織 編集/写真・林紗記 スタイリング・村井素良)
本日のメニュー
・麦サラダ:600円
・温野菜:800円
・ラムの串焼き肉:450円
・うにクリームのパスタ:1100円
・パン100g:300円
・ワイン各種(3杯):750円〜
※フードは全てハーフサイズ、ワインはその時々の入荷でなくなり次第終了。
合計:5500円(税抜き)
お店情報
Cizia
東京都品川区小山6丁目6−3
TEL 03-6314-3965
※Ciziaでは新型コロナウイルス対策として、Instagramで常時お店の情報を更新しています。
テイクアウトメニューや営業時間はこちらをご確認ください。
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TEL 090-2773-2847
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