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Friday, July 24, 2020

ドキュメント「シリア難民からのSOS」の衝撃(2)「難民女性が“売春”や”人身売買”まで」(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

 7月12日にNHKのBS1スペシャルで放送された「レバノンからのSOS~コロナ禍 追いつめられるシリア難民~」(再放送は18日)。

 こうした難民たちの苦況などの取材では日本一と言われる名手である金本麻理子さんの長期撮影が記録した様々な衝撃的な事実がつまったすばらしいドキュメンタリーだった。これまでテレビや新聞のニュースなどで国内では大きく報道されることがなかった事実を数多く伝えている。前回はその中でシリア難民が生活困窮の末に自分の「臓器」を売りに出している実態や難民の子どもが誘拐されて臓器を摘出された姿の遺体で見つかるという実態について紹介した。ヤフーニュース個人(7月24日)ドキュメント「シリア難民からのSOS」の衝撃(1)「難民の子が誘拐されて臓器を摘出されて死んでいた」

 引き続いて、さらなるショッキングな事実の数々を伝えていきたい。 

極貧の果てに「子ども」だけが働く実態!

 レバノンではシリア難民に対して複数の自治体が門限や移動制限を課しているが、これが差別的で難民がスケープゴートにされれいると国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は警告を発している。

 9人家族で働き頭だった兄が誘拐されて、臓器を摘出された姿の遺体で発見されたシェイマの一家を訪ねてみると、両親はコロナ禍でその後も仕事がなく、シェイマは食料品店から野菜の下ごしらえの仕事を請け負って、妹たちとニンニクの皮むきなどの作業を行っていた。

(シェイマ)

「偉いね。頑張ってむいているね。さあ、もう少し頑張って」

 妹たちに声をかけて励ましながら皮むき作業を続ける場面。姉らしくふるまうシェイマの健気な様子は見ていて胸が熱くなる。

生活のため売春のほかに選択肢がない女性たち

 5年前にシリアから3人の子どもたちとレバノンに逃れてきたジャミーラ(仮名)。

 シリアで商店を営んでいた夫は兵役に獲られたまま消息不明だ。子どもたちは食べものでチキンの煮込みが好物だと語るが、実際には「5か月間で2回しか食べられない」とこぼす。極端に貧しい生活を強いられているからだ。

 ジャミーラは子どもたちに掃除婦として働いていると説明しているが、実際には売春で生活費を稼いでいる。

 いろいろな男性と寝ているうちに妊娠して、誰の子か分からなくなってしまった。父親が分からない子を流産した時に子宮を傷つけ失っていた。

 番組ではジャミーラが洋服店に声をかけて仕事がないかを探す場面が出てくる。

 清掃、家事、店番などを探してもどこも雇ってくれない。その都度、返ってくるのは「ないね」とか「必要な時に電話する」という答え。

 彼女は3人の子どもを学校に通わせているが、公立の学校には受け入れてもらえず、ボランティアや国連が運営する学校に通わせている。学校の費用、家賃や光熱費で月に5万円は必要になってくる。食料はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)から支給されたカードで月1万円ほどを買うことができる。

(ジャミーラ)

「これでは足りません。少しは助かりますが、借金なしでは厳しいです」

 子どもたちを送り出すと、ジャミーラは仕事の支度を始める。鏡に向かって濃いめの化粧を施こす。

 客はみなレバノン人。電話で予約する常連客が指定するホテルなどの場所に出向いて売春する。

 10日間に1、2度客をとって、1日得られるのは2~3000円。 

 難民の女性の中には人身売買の犠牲となって、拘束された中で性を売ることを強いられているシリア人の女性たちもいる。レバノンのコンテナで売春をさせられている女性が登場する。兄が2000ドルでシリアからここに売ったという。まだ22歳なのに殴られる日々で白髪が増えたと頭部を見せる。知り合いも金もなく、逃げることもできない。そんな絶望的な境遇にいる女性を金本さんのカメラは記録している。話す相手は犬と猫とだけ。「死人のように生きている」と話す。こうしたケースが後を絶たないのに女性たちが助けを求めるケースはほとんどないからだという。人身売買された女性の救援活動をしているNGOも「家族が社会的非難を受けることを怖れることや売春した女性も犯罪者と見なされてしまう。それは難民が援助を受ける上で大きな障害になる」と支援の困難さを説明する。

 このドキュメンタリーのすぐれたところは、それぞれの当事者を登場させた後でレバノン国内のシリア難民の窮状に詳しい専門的な団体などに話を聞いて状況分析や解決策を模索しているところだ。つまり「報道(ジャーナリズム)の作品」として成立しているのだ。

 臓器売買、難民への差別や迫害、人身売買…。登場する一つひとつがこれまで難民をめぐるニュースであまり焦点が当たってこなかったテーマだ。テレビのニュース特集や新聞記事であればそれぞれ独立して報道すべき問題だろう。それをこの番組では数多いシーンの一つとして登場させいる。シリア難民の現状をめぐって、これほど深刻な問題が様々な形で重なって存在することを見せつけるドキュメンタリーは珍しい。報道的な価値が大きいものだ。日本人ジャーナリストが国内メディア向けに制作したというよりも、国際的に見ても十分に通用する。これほど深刻な現実を難民の生活に迫って伝えるドキュメンタリーは滅多にない。

 さらにこうした問題ごとに生きている当事者一人ひとりを時間をかけて、たびたび訪問して映像で記録し、NGOなどの支援の手が及ばない現実も伝えることができている。特に子どもたちや女性たちへの共感的な「まなざし」を向けているが、他方で冷静な取材姿勢を崩さない。

 新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、わが子に隠して売春までして生活費を稼いでいたジャミーラが援助を求めようと支援団体に電話しても、コロナウイルスのせいで事務所がすべて閉まっていて録音された音声メッセージが流れるだけだった。

 新型コロナウイルスの流行でジャミーラの客も減って、彼女はいつもはしなかった路上での「客取り」を行って、見知らぬ男の車に乗ったところ客の暴力による脅しを体験する。その後に精神的な打撃で部屋で起きあがることも出来ずに彼女が寝込んでいる様子までカメラは撮影している。母親が寝込んでいる間に子ども同士で起きていたけんかの様子まで記録している。

シリア難民同士の「近所づきあい」まで記録!

 ジャミーラが相談相手として頼っているシリア難民の女性がいた。マラク(仮名)だ。難民キャンプなどのシリア人女性の相談相手になり、ジャミーラも売春の事実を打ち明けていた。シリア内戦で夫を爆撃で亡くし、4人の子どもとレバノンに逃れてきた。裁縫が得意で近隣のレバノン人から仕立ての注文をとって生計を営んでいる。

 マラクの元を頻繁に訪れる少女ハナーン(仮名・17)。病気を抱える母親と3つ上の兄と弟妹4人の家計のために売春をしているが、稼ぎがなく、同居する兄はハナーンが渡すお金がない時にはナイフで切りつけてくる。彼女の腕は兄につけられた傷だらけだ。カメラはハナーンの家族の様子まで撮影している。夜になって酔って帰宅した兄がハナーンに金を求める場面。「ない」と言うとハナーンや弟妹を殴る場面。食器を壊す場面。様々な家庭内の暴力の場面が赤裸々に記録されている。怯えるハナーンら家族の表情。

 ハナーンによれば、シリアにいた頃の兄は優しかったという。兄はレバノンに来てから、ある日、公安に拘束されたことをきっかけに人が変わってしまったという。滞在許可証を持っていなかったため、今度見つけたらシリアに送還すると脅された。公安への恐怖から物乞いをして買った酒で酔っては家族に暴力をふるっていたのだ。

 レバノン政府はシリア難民に滞在許可証の取得を求めている。しかし、その費用を払うことができず8割近い人たちが滞在許可証を持たないまま避難生活を続けているというデータがある。

相談相手マラクの仲介で暴力的な兄との「対決」

 兄の暴力がひどくなったことでハナーンはマラクの家に寝泊まりするようになる。

 だが、マラクはハナーンに対して、兄から逃げずに自分の思いを伝えるように勧める。

 マラクの家に兄を呼び出してハナーンとマラクは兄に語り続ける。その間もタバコを吸い続ける兄。

 その兄にマラクとハナーンが語りかける。

(マラク)

「誰がタバコ代を稼いでいるの?」

「あなたの姉弟が3日間食べていないことあるのを知っている?」

(ハナーン)

「以前のお兄ちゃんに戻ってほしい。私たちを心配して愛してくれた」

 今度殴ったら警察に通報するとマラクに言われて、兄は「たたかないようにする」とだけ言って会話を終えた。

 宙を見つめるようなハナーンの目。絶望の中にいる人の目の表情だ。国連機関の調査でもシリア難民の女性への暴力が増加している実態があるとナレーションで伝えた。

 精神科医は「男性は精神的な治療を受けることを恥と感じがちだが、実は難民男性の多くが精神的な問題を抱えている」と見解を紹介している。男性のうつ病など精神的な問題が家庭内暴力などにつながって家族へのストレスとなる「ストレスの連鎖」があるのだと言う。

地域の相談相手のマラクが公安に拘束された!

 マラクが突然、姿を消した。夜になっても家に帰ってこず、4人の子どもたちが眠れない夜を過ごしている様子をカメラは撮影している。

 翌日、昼頃に戻ってきたマラクによると、滞在許可証を持っていなかったことで公安に拘束されたと言う。手錠をかけられ、壁に引っかけられた体験を涙ながらに話す。彼女の顔からはこの番組でマラクがそれまでに見せていた「難民女性の相談相手」という印象をまったく感じさせず、恐怖の色が浮かんでいた。マラクはシリアに強制送還されて子どもたちに二度と会えないのでは、と不安の中で過ごしていたと話す。

 滞在許可証を得るためには1000ドル以上の支払いが必要だ。それができないマラクにはレバノンを出るか、保証人をつけるかの選択を迫られていた。レバノン政府は困窮する一部の難民には滞在許可を免除する政策をとっている。しかし国連機関は難民の多くが滞在許可を得られずに不安定な立場に置かれていると指摘している。当局による嫌がらせやハラスメントなどが横行する実態がある。

一家の大黒柱の父親が「焼身自殺」も!

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、新型コロナウイルスの感染拡大後にレバノンのシリア難民の極貧層は55%から75%に増加したという。

 そんな中で息子や孫など9人家族を支えていた52歳の父親が空き地で焼身自殺を図った末に死亡した。仕事も収入もなく、この2か月、支援団体に100回電話しても何も与えられなかったという。マラクも親しくつき合っていた家族だった。

 マラクがお悔やみのために訪れると、遺された息子からやり場のない思いをぶつけられていた。

 新型コロナウイルスのために外出禁止で完全に働けなくなったことを、息子は「コロナは僕らを完全に麻痺させた。コロナで仕事が完全になくなり、すべてが閉ざされた」と表現したのだ。

 続く、息子の言葉は世界中の人たち、つまり私たち日本人にも向けられたものだった。

「この疎外感の中でシリア人は飢えで死んでいる。レバノン中のシリア難民の状況を見てほしい。世界は確実に僕らのことを忘れた

 内戦で子どもらが死んでいるシリアの現状は知っていても、難民として逃れたはずのレバノンで極貧のあまり死の淵にされされている現状を知っている人はあまりいない。金本さんが取材した映像はそうした実態を伝える数少ない存在だ。

自ら命を絶つ人も多くなるだろう。暮らしていけないから。子どもが飢えるのを見るより死んでしまった方が楽だ」

 そんな絶望感が漂うシリア難民。

 私たちは関係がないと言っていていいのだろうか。

「女性たちの自立につなげたい!」裁縫技術を教えるマラクの姿

 仕事が減っていたマラクに再び注文が舞い込んできた。様々な用途のマスク作りの注文だ。仕事ができることで生き生きとした表情を取り戻したマラク。

 収入が増えたことで裁縫の技術を女性たちに教えて、自立を手助けする活動も始めていた。

 子どもたちとの生活のために売春していたジャミーラもマラクから裁縫技術を教わっている一人だ。

 記事の冒頭の写真はそうした場面の一コマだ。

 ミシンの使い方を教えるマラク。真剣にミシンを使って縫うことにトライした末に成功して「学ぶのは楽しい」と語るジャミーラ。うれしそうな表情がまぶしい。

 マクラにはいつ滞在許可のことで公安から電話が来て国外退去を命じされるか、まだ先は不透明なままだ。

 そんな不安を残しているマラクの言葉でドキュメンタリーはクライマックスを迎える。

(マラク)

「最初、私たちがレバノンに来たとき、みんながシリア人女性のことを気にかけ、心配してくれた」

 でも…と彼女は言うのだ。

「でも今、時間がたつほど世界中は忘れている」

 今の私たちを見つめてほしい。忘れないでほしい。そんな切実なメッセージが続いた。

(マラク)

「私たちは働いて最善を尽くそうとしている。自分の力で生活できるように。世界中がそんなシリア人を忘れないことを願っている」

 「世界中」の中には私たち日本人も含まれいる。

 ジャミーラは難民キャンプの一角に小さな花壇を作って、そこに祖国シリアで爆撃の後でも残ったと言われるジャスミンが花を白い咲かせる場面でドキュメンタリーは終わる。

 苦況の中で生きる人々の「生」が丁寧に描かれた作品で深い感動が残った。

人間たちの姿を丁寧に記録したドキュメンタリーだった!

 こうやって見ていくと、この「レバノンからのSOS」というドキュメンタリーがシェイマ、ジャミーラ、ハナーン、マラクらの生活の日々を丁寧に撮影しながら、それぞれの人生を映し出したドキュメンタリーだということが改めて分かる。

 シリア難民という立場やレバノンで生活しているということで困窮の度合いが深まった極限状況に追いつめられているものの、それでも前を向いて生きる子どもたちや女性たちの「強さ」を伝えている。

 特にシェイマやマクラはどんなに打ちのめされても立ち上がっていく人間としての「尊厳」や「光」を感じさせる人たちだ。

 難民たちの苦況が「コロナ禍」で深刻さを増していることは言うまでもない。だがそこには現在の日本とも通じる問題が見え隠れしている。それは経済的な不振が広がって失業などが増えていくと、その問題の「しわよせ」が社会の中の弱い方へ弱い方へと影響していくこと。そうした人たちへの差別や偏見も広がっていくこと。男性の家庭内のストレスが女性らへの暴力にもつながっていくことなどだ。

 そんな中で歯を食いしばって生きる人たちの姿を見て、心の奥で人間の気高さをしみじみ感じさせられた。

 一つひとつのインタビューが「その現場」で撮影されていて、映像取材の技術も超一級品だと言っていい。

 今年見たあらゆるドキュメンタリーの中でピカイチという作品だった。

 また再放送されるのだろうか。あるいはいずれ映画などになるのだろうか。

 コロナ禍の「いま」を伝えた映像作品の中でも誰もが心の中で大事にしているものにズシンと響くような、そんな作品だった。ぜひまた見る機会をつくってほしいと願う。

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July 25, 2020 at 06:00AM
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