コロナ禍で学生が消え、売り上げが落ちた学生街のパン屋を支えようと立ち上がった学生たちがいる。毎週火・木曜に大学周辺のパン屋からパンを買い取り、経費分を数十円上乗せして販売。利益はほぼゼロだが、「学生街の活気を取り戻したい」と奔走している。
利益なくても「地元盛り上げたい」
龍谷大の1～3年生9人による学生団体「きょうは、パンにしようか」（きょうパン）。深草キャンパス（京都市伏見区）で毎週火曜、大宮キャンパス（同市下京区）で毎週木曜、大学周辺などにあるパン屋からパンを買い取り、昼休みに合わせて正午から午後1時半まで、構内の中庭で販売している。
深草キャンパスでの初回となった11月2日には行列ができ、用意していた5種計50個のパンは30分ほどで完売。購入した短大部の女性（19）は「昼休みは大学の外まで行く時間があまりないので便利」と歓迎する。ただ、きょうパンの代表で国際学部2年、向井迅（じん）さん（21）によると、どれだけ売れても利益はほぼ経費に消えるという。「地元・深草を盛り上げたい、という思いでしている」。向井さんが力を込める。
向井さんはコロナ禍の2020年春に入学。当初から授業はオンラインで実施され、キャンパスには通えず、理想の大学生活とはかけ離れた日々を過ごしていた。そんな中、大学周辺のパン屋に入ると、店主の表情がどこか暗いように感じた。話を聞くと「学生が来ないので売り上げが落ちた。他の店も同じだ」と明かしてくれた。
自分たちの学生街がさびれてしまうことに危機感を覚えた向井さんは、まずはパン屋を支援することで、まちを盛り上げようと決心。多くのパン屋が個人経営店で人手不足に悩んでいたことから、自分たちが代わりにキャンパスでパンを販売することを思い付いた。
保健所で指導受け、大学から販売許可
そこで、SNS（ネット交流サービス）などで協力してくれる仲間を募集。パンの販売に必要な要件を市の保健所に問い合わせ、「常温」「個包装」で「成分表示」を明示するよう指導を受けるなどして条件を整えた。利益はなくとも営利活動ということもあり、大学側は当初、キャンパス内での販売に難色を示していたが、話し合いを重ねることで許可を得ることもできた。
深草で2回目の販売となった11月9日には、5店から集めた12種計140個を販売。学生だけでなく教職員なども列を作り、30分ほどで売り切れた。パンを卸した大学近くの「BOO」店主、横田智寧（ともやす）さん（46）は「話を聞いた当初は半信半疑だったが、真剣に行動して実現した行動力はすごい」と喜ぶ。向井さんも「パン屋さんから『ありがとう』と言ってもらえる瞬間は、涙が出るほどうれしい」と手応えを感じている。
この日、客として訪れた向井さんの友人で国際学部2年の男性（20）は「コロナ禍で入学し、これまでしたいことはほとんどできなかった。友達の活動を見て、自分も何か始めたいと刺激を受けた」と前を向いた。向井さんたちが始めた小さな試みが、街のパン屋を救い、コロナ禍の学生をも勇気づけている。京都の学生街は、コロナ禍に負けはしない。【千金良航太郎】
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