いまだから、おうちでパンを楽しもう。ただ食べるだけではなく、アレンジに凝ったり、一手間かけておいしくすれば、楽しみ方が広がる。そんなとき心強い味方になってくれるのが、ジャムやペーストなどのスプレッドだ。お取り寄せシリーズの第３回は、私が自信をもってすすめる、とっておきのスプレッドを紹介しよう。
Bocchi
「畑で採れたピーナッツペースト」。砂糖不使用、加糖つぶ入り、加糖つぶ無し
このピーナツペーストに出会ったときは衝撃だった。無添加のピーナツペーストはもさもさする。そんな思い込みを一変させる、クリーミーさとみずみずしさ。濃厚かつ、まったりと甘く。やがて土っぽい香りが現れ、口の中を席巻していくとき、ピーナツ畑の風景が眼（め）の前に蘇（よみがえ）る。
ピーナツの故郷、千葉県旭市。ピーナツ加工場を営む家に生まれた加瀬宏行さんが、自ら立ち上げたブランドがBocchi。たくさんのパン屋をまわって、職人たちと話し、その声を反映させ真摯（しんし）に商品の改良を行った。加工だけではなく、自らの手を土で汚して、無農薬でピーナツを育てることにも取り組む。
トーストに「畑で採れたピーナッツペースト」を塗り、バナナをのせる
ピーナツペーストは３種類。「加糖つぶ無し」「加糖つぶ入り」をパンに塗るだけでもちろんおいしいが、砂糖不使用タイプが、一工夫しがいがある。ピーナツペーストの上に、さらにジャムやチョコペーストを塗る。すると、コクが増し、ずきゅーんと風味が加速する。バナナが最高のパートナー。スライスしたバナナをのせれば、砂糖を使わないおやつに。
甘くするだけではなく、茹（ゆ）でた野菜などにつけても、おしゃれな食べ方になる。
ピーナツの粒を甘く煮た「畑で採れたピーナッツの蜜煮」。畑の風味を一粒に閉じ込めた最高の贅沢（ぜいたく）。バターとの相性がすばらしい。
「畑で採れたピーナッツの蜜煮」
Bocchi（千葉県旭市）
0479-67-3566
http://bocchi-peanut.jp
RYO’S FARM
とろっとした黄色い物体を一口なめれば、太陽の光をいっぱい吸い込んだ果物の熟した甘さとすーっとさわやかな酸味。その瞬間つれていかれるのは、太陽照りつけるリゾートの海岸。特に夏の暑い朝などに食べると元気に一日をはじめられそうだ。
リリコイとは、ハワイ語でパッションフルーツのこと。リリコイバターは、バターと卵と砂糖といっしょに煮込んで作られるバタージャムだ。
リリコイバター
千葉県の南端、館山。冬でもあたたかなこの街で、パッションフルーツを育てている、梁寛樹（りょうひろき）さん。濃厚な甘さは、洗濯バサミで落下を防ぎ、完熟させることから生まれる。生産者自身の手でジャムが作られるのは意外と珍しい。だからなのか、このジャムには太陽が詰まったような風味がしっかりと表現されている。
生食パンのようなリッチな甘さのパンと、相性がいい。おすすめは、フレンチトースト。マンゴーやキウイやパイナップルなど南国系のフルーツものせれば、おうちでリゾート気分だ。
フレンチトーストにリリコイバターをかけて
RYO’S FARM（千葉県館山市）
080-3529-6935
https://ryosfarm.com
patisserie MiA
おしゃれなコンフィチュールだ。パッケージだけではない。どのフレーバーを食べてもセンスに唸（うな）らされる。
キウイ＋りんご、フランボワーズ＋ショコラ
さくさくとした果肉の食感を残した「キウイ＋りんご」（季節商品）。しっかりとした甘さによって活（い）かされたキウイの青い香り、りんごのあたたかな香り。やがて閃光（せんこう）のような酸味がきーんと駆け抜け、口の中から消えたあとでも果物の残り香が快い。
一方、ねっとりとした舌触りの「フランボワーズ＋ショコラ」。濃厚な上にも濃厚。鼻腔（びこう）にまとわるように強烈なカカオの風味と、赤い果実味が同時にやってくる。香りと甘さと鮮やかな酸味のつばぜり合いは実に官能的。
季節のコンフィチュール「キウイ＋りんご」
木工作家の川端健夫さんと、パティシエールの川端美愛さんの夫妻が、滋賀県甲賀市にある廃校跡を改装した、洋菓子屋兼カフェとギャラリー。付近で取れる果物や牛乳、全国の生産者から直接届く恵みで焼き菓子やコンフィチュールを作る。
美愛さんの勧める「キウイ＋りんご」の食べ方は、白カビチーズとのペアリング。私もやってみた。冷蔵庫にあった青カビチーズで代用、トーストして少しとろけさせてからジャムをのせてみる。甘じょっぱさは味覚の常識を引き裂き、香りは弾けて鼻腔を痛烈に襲う。
「フランボワーズ＋ショコラ」は、いかにもフランス的な組み合わせ。遠慮なくたっぷりバターをのせたバゲットがばっちり合う。
バゲットの上に、バターと、コンフィチュール「フランボワーズ＋ショコラ」
patisserie MiA
滋賀県甲賀市甲南町野川835
0748-86-1552
http://mammamia-project.jp
［通販］https://gurusuguri.com/shop/mammamia-project/
Minamicho Terrace
鎌倉のほど近く、時代から取り残されたような小さな漁港、小坪。海を見下ろす丘の上に、かつての漁師の家をリノベした、建築家夫妻が週末だけ営むベーカリーカフェがある。
小坪の海岸を見下ろす
パンを焼くのは、妻の日高直穂子さん。イギリスで開かれたマーマレードの世界大会で金賞を得た、ジャム作りの名人でもある。農薬を使わず育てられた材料を、時間と手間をかけておいしいジャムにしていく。
箱を開ければ、信号機みたいな、きれいな赤と黄色。赤は「苺（いちご）＆ルバーブジャム」。それぞれ栃木と長野の生産者から届けられたものを使用。果実と茎というちがいを超えて、二つの赤い香りが溶け合い、響き合っている。
苺＆ルバーブジャム、島レモンマーマレード、自家製酵母のヴィーガンスコーン
少女のように跳びはねるイチゴの甘さを、ルバーブがお姉さんらしく酸味で引き締め、せつない余韻を作りだす。スコーンにまるまる残ったイチゴの果実をのせて食べる。つるんと喉（のど）へ落ちて、甘さと酸味を爆発させ、その振動は体の隅々まで揺さぶっていった。
黄色は島レモンマーマレード。瀬戸内・大三島の無農薬レモンを使用。まるで、純粋状態で取り出されたレモンの香りと酸味の絶対状態を食べているかのようだ。きらきらした酸味が後引く中、スコーンを口に入れると、レモンに驚いた舌を麦のあたたかさが、撫（な）でてくれた。
苺＆ルバーブジャム、島レモンマーマレード、自家製酵母のヴィーガンスコーン
Minamicho Terrace
神奈川県逗子市小坪4-12-15
0467-84-7162
https://www.minamicho-terrace.com
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May 12, 2020 at 10:37AM
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