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Monday, October 19, 2020

ハード系! でもジュースのような舌触り? パン欲の底なし沼へ/中村食糧 - 朝日新聞社

こんにゃくか? 濡(ぬ)れ布巾か? 軟体動物か? いや、「みんなのパン」という名の、まぎれもないパンである。しかもハード系! なのに、こんなにソフトとはこれいかに? 溶けている。舌に触れた瞬間に、いや食べる前からすでに溶けているかのように、口の中ですぐさまジュースとなり、小麦の香りと甘さが濃厚にあふれかえる。食べても食べてもジュース。まるでストレスがない。だから、いくらでも食べてしまい、パン欲の底なし沼にずぶずぶはまる。

食べれば、頭の中に大きな「?」が浮かび、やがて「!」に変わる。反対に、降って湧く「!」は「?」を招き寄せる。「!」と「?」を行きつ戻りつする超常体験が中村隆志シェフの真骨頂だ。

突如として東京に進出したことも「?」であり「!」だった。看板もない、現金も使えない、という謎の店、和歌山の「3ft」が東京にやってきた。知名度を捨てることさえ躊躇(ちゅうちょ)なく、「中村食糧」というマジメとも冗談ともつかない店名を掲げる。

ハード系! でもジュースのような舌触り? パン欲の底なし沼へ/中村食糧

中村隆志シェフ(右)

「ヨカン」というパンも人を食っている。

「ようかんをイメージして作りました」

麦と塩と発酵種だけで? いぶかりながら食べると大きな驚きに出会う。これは本当にようかんではないか! それが言いすぎでも、ういろうレベルには達している。これで砂糖なしか? めちゃくちゃ甘いのである。つるっとした歯触り、ぶるんと抵抗するしっとりな噛(か)み心地。そして、本当に小豆っぽい香り。なぜだ? 香りの理由は「ライ麦です」と。だとしても、ゆで小豆レベルまでライ麦を甘くするのは簡単ではない。

ハード系! でもジュースのような舌触り? パン欲の底なし沼へ/中村食糧

ヨカン

秘密は、自家培養する発酵種にある。レーズン種、ヨーグルト種、麹(こうじ)を使った酒種、ルヴァン種という4種類。17℃20時間でとろとろと醸し、たんぱく質やデンプンを、甘みや旨(うま)みへと溶かしきる。

「溶かす」ことは同時に、異常なる食感への答えでもある。100%(粉に対し)を超えるたっぷりの水分を小麦が吸い込み、ぷるんぷるんに。硬さの元であるたんぱく質(グルテン)も溶かすから、ゆるゆるになるという次第だ。

でも、それだけでは生地はどろどろになり、パンにはならない。「ミキシングが重要です。強めにミキシングしてグルテンをしっかり作ります。めちゃくちゃいじめて、20時間で回復させてあげる」

どろどろに溶けきる前に寸止めできる強靱(きょうじん)なグルテン。最近流行(はや)りの「こねないパン」ではなく、こねまくった生地ならではの薄い膜もまた、瞬殺の口溶けのための重要な要素だ。

発酵種は、種継ぎせずフレッシュな状態で使う。4種それぞれの香りを足し算引き算することで、さまざまなイメージのパンを自在に作りあげる。

ハード系! でもジュースのような舌触り? パン欲の底なし沼へ/中村食糧

マロロン

渋皮煮を入れた「マロロン」は栗まんじゅうのようだ。口の中がマッサージされるかのようなぷるぷる物体。でんぷんの濃厚な風味。栗と酒まんじゅう的マリアージュを繰り広げるのは、麹(酒種)が強烈な分解力で、小麦を甘酒に変えてしまうからだ。

だから、中村食糧のパンには和の食材が合う。「あんこマスカルポーネ」という麻薬。ふるんふるんな生地からあふれだすあんこも、マスカルポーネも、麦もとろける三重奏。それに加え、高温で焼きこんだ皮。旨味とほんのりレーズンの香りを漂わせて、小豆の香りと響き合うことで、エクスタシーの度は極限へと高まる。

ハード系! でもジュースのような舌触り? パン欲の底なし沼へ/中村食糧

あんこマスカルポーネ

「驚かせて、びっくりさせたい。人の心を動かしたい。むちゃくちゃやわらかかったり、ふにゃふにゃやったり、すっぱかったり、突き抜けたものがないと自分の店では出さないようにしています」

原点は、少年の頃読んだ『焼きたて!!ジャぱん』(主人公がライバルたちとパンで対決する漫画)。そこに出てくるパンは空想のものにすぎないのに、中村さんは本気で現実の世界で形にしようとしている。

また、中村さんの製法は、国産小麦を日本人の味覚に合わせて提供する方法として極めて秀逸。彼の情熱が東京のパンシーンを揺さぶる意味は果てしなく大きい。
 

中村食糧
東京都江東区清澄3-4-20
10:30~15:30
火・水曜休
https://www.instagram.com/3ft.official/

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    PROFILE

    池田浩明

    佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
    日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
    http://panlabo.jugem.jp/

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