熊本県人吉市で82年続く個人ベーカリー店「パン・オ・ルヴァン」。本格的なハード系のパンを楽しんでもらいたいという思いが地元客に徐々に受け入れられ、姉妹店を含め4店舗を展開。2021年4月にはJR熊本駅ビルに出店を果たしました。
運営する有限会社ワールドベーカリーは食材が多くなったことで、仕入れ作業にITを導入。スタッフの生産性をアップさせたといいます。どのように取り組んでいったのか、取締役専務の常松真由美氏にお話を伺いました。
「町のパン屋さん」が人気ベーカリーに至るまで
【Q】82年の歴史があります。どのような成り立ちだったのでしょう?
現在の社長が3代目になりますが、祖父に当たる創業者が地元熊本の多良木町に昭和14(1939)年に開業しました。
当時はおまんじゅうやボーロ、あめなどを手作りして、町の商店さんに卸売りをしていましたが、戦後になって学校給食の始まりとともにパンを焼き始め、給食の指定工場になりました。店舗ではパンやお菓子を売りながら、近所の商店や学校給食のパンの卸を主に取り扱ってきました。
現代となって人吉・球磨地域では過疎化が進み、パンの卸だけでは経営が難しくなってきました。そこで15年前にパンのほかにケーキや洋菓子を扱う姉妹店の「ナチュラル」を出店したのです。
当時は大手のパンメーカーが「フランスパン」として出しているソフト系のパンが一般的で、現社長が東京で修行を積んで習得したバゲットをはじめとするハード系のパンはなかなか受け入れてもらえませんでした。お客様の好みに合わせたり、地元産の原材料を使ったりと工夫をこらしながら、バゲットだけでなく、惣菜パンや菓子パン、サンドイッチなどを扱って、試行錯誤を繰り返しつつ展開していきました。それが徐々に受け入れられるようになり、少しずつですがお客様に来ていただけるようになったと思います。
【Q】その後に「パン・オ・ルヴァン」の出店となるわけですね。
現社長の、自分が学んできたハード系のパンへの思いは強くて、やはり自分たちの作りたいもの、表現したいもの、お客様に食べていただきたいものを作っていこうと、思い切って10年前に出店したのが「パン・オ・ルヴァン」でした。
熊本の中でも創業地の人吉・球磨は特に焼酎文化の根強い地域で、主食はやはりお米が中心です。もちろんパン食は当たり前ではありますが、本格的なハード系パンの文化が定着していくにはまだまだ余地があると感じていました。
お客様にはパンってもっと奥深いものなんです、いろんな食材とあわせて食べるとおいしいですよという思いを発信したかったのです。
そこで店舗ではハード系のバゲットだけでなく、デニッシュやサンドイッチなど多様なパンのほか、ワインやチーズ、ジェラートなども販売しています。食材の提供というより、食卓を提案するという発想です。おかげさまで、コアなファンの方々ができ、地域の人に愛されるようになってきたと感じています。
【Q】その結果、今年4月、JR熊本駅にオープンした駅ビル「アミュプラザ」に出店されました。
とてもありがたいお話でした。10年間「パン・オ・ルヴァン」というブランドを育ててきて、それが認知されたことも喜びですし、熊本の玄関口で発信できるという、とてもいい機会をいただいたと考えています。
何よりも自分たちがパンのある食事のシーンが好きですし、楽しいと感じてきました。そういう楽しみ方をお客様に知ってもらいたいという思いに尽きます。それが理解されたことがうれしいし、今後も新たな楽しみ方を提案していかなくてはならないという重圧も感じています
原材料へのこだわりと多品目ゆえの悩み
【Q】本格的なパンを焼く場合、やはり原材料は厳選されたものを使っているのですか。
原材料の小麦粉は熊本県産をメインに使っています。また、惣菜パンやサンドイッチなどにつかう野菜や卵、お肉などの食材や、ジェラートにつかう牛乳に関しても、極力熊本県産の食材でまかなっています。
ただし面白いというか、難しいというか、ハード系のパンでもとくにバゲットの場合は、どうしても熊本県産の小麦粉だけでは本来の深い味わいが出せないんです。本場フランス産の石臼引きの小麦粉でしか出せない味わいを楽しんでもらうためにも、バゲットの原材料についてはフランス産を使っています。
【Q】そうなると仕入れ先は多岐にわたりますね。
これがパンの専門店であればもう少し仕入れ先を絞ることはできたのかも知れませんが、いま店舗では様々な食材を扱っている関係で、野菜や肉や卵のほか、マヨネーズやソース、バターなどと取り扱う食材が何種類にもなります。ほかにもパン用の小麦粉はもちろん、ワインやチーズなどの外国からの輸入品もあり、そうとうな数の食材を仕入れていることになります。
そこで2019年、仕入れのシステム化を考えて、インフォマートの『BtoBプラットフォーム受発注』を導入しました。きっかけは、経営の勉強のために取り寄せた大手コンサルティング会社の教材なかに、飲食店と卸売業者間での受発注システムという仕組みがあることを知ったことです。
その時はそういうものもあるのかと思っただけでしたが、後日、店舗のバックヤードで発注を担当していたパートスタッフが、「これから○○を×個発注するけど、ほかに何か注文するものある?」と大きな声で呼びかけている場面を見ました。そのスタッフは、FAX用紙に品名と数量を一生懸命に書き込んで、送信していました。
そして思ったんです。そうか、発注すべき品目が多岐にわたっているからこそ、それぞれの担当現場で、誰かが気づく範囲内で発注するしかなくなっているのかと。そのやり方では発注漏れも起こるし、トータルで見ればムダも出てきます。これは改善しなければ、と強く思いました。それが直接のきっかけでしたね。
導入して改めて気づかされた非合理性
【Q】現場からはIT化への抵抗はありませんでしたか?
それは特になかったようです。というのも、うちのパートスタッフは比較的若くて、スマホを使いこなせる世代です。その点、受発注の画面はスマホからでもアクセスできるから、スタッフからは「難しい」とか「使いにくい」といったマイナスな評価はありませんでした。最高齢の60歳前後の方も操作しています。
むしろ自由になったという声が大きいですね。FAXで発注する際は機械に張り付かなければできませんでしたし、過去のデータと比較するには、オフィスにいってファイルをめくって調べなければなりませんでした。それが、いまはスマホでいつでもどこでも発注できるようになりました。休憩時間に発注しているスタッフもいます。
【Q】仕入れで役立っているということですね。
発注だけではなく、原価計算にも便利に使っています。サンドイッチ部門で扱う食材は野菜がメインで、天候や季節などの諸事情によって原価のアップアダウンが激しんです。そのときに検索をかければ、卸値の安い業者を探せますし、他の商品一覧も見られるので替わりの食材を探すことも簡単です。
新商品やリニューアル商品をだすときには必ず原価計算を行って、売価を設定しています。商品を開発した担当者が売価設定までおこなうのですが、その際、かつては業者ごとにまとめてある納品伝票の束から食材ごとに数字を探して、トータルでの仕入価格を確認していました。でも、いまは食材ごと、季節ごとに価格のかわる仕入れ食材に関しても直近の数字を確認できます。原価計算から売価設定まで、極端に作業工程が少なくなりました。
いまでは新商品開発担当者が、「今日は時間がないので、家で原価計算をやってきます」などと気軽に、ストレスなく作業しています。システムを導入して改めて、これまでいかに大きな時間的ロス、作業工程のムダがあったか知らされた思いです。
ほかにも発注確認とか、過去の納品書検索とか、様々な業務が楽になったので、作業に取りかかる前の億劫さから解放されて、スタッフの心理的にも良い効果があったのは間違いありません。
スタッフへの期待とさらなる飛躍と
【Q】今後の展望を教えてください。
うちは駅ビルに出店したとは言え、あくまでもオーナーとパートさんによる個人店です。やはりパートスタッフの力に頼るところは少なくありません。そのスタッフのストレスが少しでも軽減できれば、次のメニュー開発や売り方、味のこだわりなど、様々なことを考える時間に充てられます。
これまで自分たちが楽しい、美味しいと思った食卓のあり方を提案してきたつもりですが、今後も同じです。スタッフが仕事を楽しんでくれれば、その思いはお客様に伝わると信じています。
ご来店いただくお客様にとって、パンを選んでいる時間を幸せに感じていただける。そんな商品開発、お店作りを進めていきたいと考えています。
からの記事と詳細 ( 熊本の町のパン屋さん、生産性を上げる仕入れの業務改善~パン・オ・ルヴァン|フーズチャネル - フーズチャネル )
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